子の化粧が許せない母親】
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ネットニュース探しでサイトを巡回していたところ、こんな記事を見つけた。

化粧を始めた中学生の息子が理解できず苦しむ母親の姿である。
要約すると、下記のようになる。

私は昔から、当時流行っていたビジュアル系の男とか全く好きじゃ無く、気色悪いカマキリとすら思っていた。
それが今のご時世、男子も化粧する時代という。
中学になるウチの息子がクラスメイトの影響で、化粧を始めた。
正直まったく理解できない。
無理やり止めさせようかと思って夫に相談したところ反論され、喧嘩になってしまった。
息子については、とりあえず今は放置しているが、男子が化粧をする行為は違和感しかない。
息子を理解出来ず、気持ち悪いとすら思ってしまい、辛い。

“釣り”でなく本心だとすれば、このような状況下でいえることは、およそ人間の心には2つの側面があるということだ。

[A]自分で自分の心を縛る事はできない
[B]自分が他人の心を縛る事はできない


上記の状況にありながら、息子の化粧をやめさせようと思考するという“作為”を働かせ、[A]と[B]を相剋させることによって、かえって憎悪や苦しみの念に囚われてしまっている……というのが現状である。

これに対し、善に基づいた落とし所はただ一つである。
それは「いい意味で無視する」ことである。

これが、自分が提示した解決法である。
その論拠は以下の通りである。

子「斉物論」】
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夫 道。 未 始 有 封。
言。 未 始 有 常。
為 是 而 有 畛 也。
請 言 其 畛。
有 左 有 右。
有 倫 有 義。
有 分 有 辯。
有 競 有 爭。
此 之 謂 八 德。

荘子「斉物論 第二」
(自分註:一部、代字を充てた)

簡単に解釈すると……

「世界は本来形がないものである」
「(多くの人が)そこに“区切り”を入れるようになって今の世界がある」
「その“区切り”により、左右が生まれ、論議が生まれ、弁別が生まれ、競争が生まれた」
「これを“八德”という」
……となる。

ちなみに、八德といっても8つあるわけでない。
“四海みな兄弟”とか“八方美人”とかあるように、中国で“四”とか“八”とかいうのは「無数の」(many)の意味合いである。

ともあれ「八德」というと、ずいぶん聞こえは良いのだが、逆である。
これは儒家思想の結果生まれたものであるため、儒家と対立する荘子にとっては“価値がなく忌むべき概念”である。

「左右」は自分としては、これは正しい・これは間違っているという“是が非かの認識”のことと思うが、そもそも老荘思想では是が非かを決めること自体を“人間の作為”と捉え、自然ではないと断じている。
その後に続く「論議」も「弁別」も「競争」も、全ては“作為”であり、儒家が行いそうな誤りだとするのである。

それでは、なぜ“作為”がそんなにいけないのかといえば、老荘思想では“作為”を働かせることで自然な生き方が損なわれ、自ら不幸になったり、他者との争いが絶えなかったりすると説くためである。

もちろん、自分たちが現代社会を生きる上で“作為”を全否定してしまっては生活が成り立たず、“作為”して生きることになるのだが、ややもすればそれが“行きすぎて”、かえって争いを生んだり自己葛藤に陥ったりするというところに留意せねばならない。
冒頭の息子の化粧で苦しむ母親においても、“作為”を働かせすぎたことによって苦しんでいる現状がある。

ちなみに自分は、十数年前に大学ゼミで荘子「斉物論」に触れて以降、他人の思想や志向が一切気にならなくなった。
これによって己の思想が正しいと過信したり、世間の認識が正義であると錯誤したりすることがなくなるので、子どもを含む他人が性にかかわらず化粧していようが、それがおかしいなどと逐一主張することに無意味さを感じるようになるし、かつ周囲でそういうことを言う人を見ると“人生縛られて可哀想”とすら思うようになる。

とはいえ、これは自分の事情である。
息子の化粧が理解できない、気持ち悪い……この感情を消すのは依然として難しいだろう。

確かに、「斉物論」においては大きな道筋を示した(※それだけでも途方もなく偉大である!)ものの、結局のところ、上記のような強いこだわり・悪感情をどう処すべきかについて詳説されているわけではないためだ。

田療法と禅】
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強いこだわり・悪感情をどう処すべきかについて、その処方箋ともいうべき書籍は、自分が校閲した森田療法本『あるがままの世界 -完全版-』(宇佐晋一・著)だろう。
森田療法は神経症(かつての“神経衰弱”)の治療法であり、神経症の症状には「手をいくら洗っても綺麗になった気がせずに、何時間もかけて洗い続ける」(強迫症)など複数あり、その原因として本人の心の「囚われの機制」があるといわれている。

森田療法ではその強迫観念(囚われの心)を否定しない。
それをしても、かえって“手が汚い”とかいう排除すべき観念への意識が強まり、増大するという逆効果しか生まないためだ。

そのため、患者には“別のこと”に熱中させるなどして、本人の識域を“別のこと”で大きくして、気付かないうちに“手が汚い”を識域外に追いやるという作業が治療の本義となり、「作庭療法」がその最たるものである。
そして、自分はこれを「いい意味で無視する」と表現したのだ。

冒頭の息子の化粧で苦しむ母親の場合、四六時中ずっと1つの事に囚われて生活がままならない状態になっているわけではないと思えるので、神経症の病態ではない。
しかし、息子の化粧が気持ち悪いというのは心的な“囚われ”に他ならず、この囚われが亢進したり累積したりする病態が神経症であることを鑑みれば、構造的にはこれまた“同根”といえるのだ。

と老荘との相関】
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さて、宇佐先生は別途『禅的森田療法』を著しているので森田療法を「禅のイメージ」で捉えているが、自分は森田療法を「老荘思想的なイメージ」で捉えている。
『あるがままの世界 -完全版-』出版に併せて自分が執筆した「Amazonの解説文」では、荘子の「斉物論」(万物斉同論)との酷似を指摘したが、これは自分が何となくそう思ったから……という思い付きで書いたものではない、そんないい加減な仕事はしない。

そもそも、「禅」と「老荘」は古代中国において密接に関与していたと考えられる。
Amazon解説文には書かなかったが、中国は後秦時代、鳩摩羅什(くまらじゅう)の弟子・僧肇(そうじょう)が著した『肇論』の中の「涅槃無名論」に“天地與我同根 萬物與我一體(天地と我と同根、万物と我と一体=天地と自分は一緒のことであり、万物と自分もまた一緒のことである)”という文言がある。
仏僧にありながら「天」と「地」と「人」を一体と称するのは老荘の概念であり、その後、禅が勃興している状況から見て、「禅」と「老荘」が互いに全く関与していないとは考えにくいのである。

なお、なぜ禅の公案があれほどまでに意味不明なのかというと、物事を理屈で理解する(※禅では[知解分別=ちげふんべつ]という)のではなく、万物との一体化を目的とするためだといわれる。
万物に実体がないというのは仏教の根本理念(諸法無我)であるわけだから、万物を理屈で理解するというのは完膚なきまでにナンセンスということである。

宇佐先生が行う森田療法は、この禅的理念をベースに行われているのだが、このように中国仏教伝播の歴史的背景を紐解けば、森田療法を「禅のイメージ」で捉えようが「老荘のイメージ」で捉えようが、上記のとおり“同根”といえるのだ。

い意味で「無視する」】
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話を冒頭の息子の化粧で苦しむ母親に戻そう。
母親は明らかに「囚われの機制」下にあり、そのこだわりはジェンダーへの意識である。

ジェンダーは“男らしさ”や“女らしさ”という「社会的・文化的に創り出された性別」を指す言葉である。(※生物学的な性でもなく、性自認のことでもない)
ジェンダーを“囚われ”というと、その筋の方々からお叱りを受けることとなるが、これを「いい意味で無視する」(他のことに没頭するなど)ことによって、「化粧をしたい男子」と「男性“性”を追求する女子」が共存する道筋が見えてくるのではないかと思う。

われわれ東洋人は、本来的には仏・道の叡智に触れる適性があると思うので、そのアドバンテージを活かしてもっと上手くやっていくことができるはずだ。
理性の押し付け合いは、所詮「蝸牛角上の爭い」に過ぎないのである。

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[管理人校閲本]
あるがままの世界 -完全版-


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