※2007年8月19日の日記
昨日は会社の同僚達と「九十九里浜」(千葉県長生村)へ保養へ。
自分にとって、海水浴は12年ぶりで、本当に行っていなかった。だから物凄くワクワクするし、今日はとても楽しい海になるに違いない・・・!
九十九里浜――千葉県長生村の海岸(外房)。
これが九十九里浜。
残念だったのは、前日までの狂った暑さとは打って変わって、この日の天気が曇りがちで、今ひとつ夏らしさを感じられなかったことだ。
それでも強い海風と、潮の香りがするから、否応無く気持ちは高揚してくる。
着いて早速、「浜辺で海を眺める側」と「泳ぐ側」の2グループに分かれたが、自分はもちろん海へ。
入るとやはり水が冷たい。
さらに予想以上に波が高い。
これは外洋に面した“外房の海”というだけではない。
ほんの数日前に起きた500人もの大量の命を奪った「チリ大地震」大津波の余波が太平洋を横断して、ここ千葉くんだりの九十九里にまで到達しているからのようだった。
12年前、和歌山の白浜の海で泳いだ時とは比べ物にならないほどの海の荒れ方だ。
そんな事情もあり、最初は慎重に泳いでいるわけだが、やはり久々の海水浴、押し寄せる波にブチ当たっているうちに楽しくなり、さらに大きな波を求め、あたかも磯幽霊に吸い寄せられるかのように、沖の方へ移動していった…。
いつもより波が高い(浜辺でさえ、この高さ)。
そのことが後で、悲劇へとつながることなど、知る由もない…。
足がつかないあたりまで泳いでいくと、ここの波はサーフィン向けではないにせよ、かなり大きく、最高だ。
波にぶち当たるたびに、これが自然の猛威かよHAHAHA…と感動できる。
とまあ、そこまでなら良かったのだが、ここで自分は何を思ったか、ただただ「“自然の猛威になす術がなかった”とばかり報道する最近のTV番組は何か気に入らねェ…少しくらい抗ってみせろよ!」という、今となってはどうでもいい思念がフツフツと湧いてきて、「今押し寄せてきている大波にどれだけ吹っ飛ばされずに持ちこたえられるか?」という“結局TV番組みたいな企画”が頭の中で発生してしまい、早速やってみようということになった。
……俗にいう、“魔がさした”というやつだ。
早速次の波で、あえて正面衝突する形で突っ込み、どれくらい押し流されないか試すと、意外といい感じで持ちこたえられる。
次の波、そしてその次の波でも、いい感じで抗えている。体のフォームなどをその場で何パターンも作り、効果的な波への抗い方を次々構築していく。
これも結構面白いな…と、そう思い始めていた頃である。
しかしその次の波が、「津波」かと思うくらいの超特大の高波であった…!
よし、ちょっと怖いけど頑張って立ち向かうぞ、と突っ込んだところ、今までにはないとんでもない力が体当たりしてきて、自分はそのまま家の2階くらいの高さまで跳ね上げられ、そのまま4回転くらいしながら45度先の、今度は異様に低くなった海面にパシーン!と叩きつけられた。
叩きつけられた瞬間、 自分は目から星を出しながらも「安藤美姫みたいだ」と思った。
だが余裕はそこまでだった。
突然、左足ふくらはぎに鋭い痛みが走り、すぐさま全く動かなくなってしまったのだ…!
途端に今まで何のことなく浮かんでいた体が、徐々に海中へ沈んでいくではないか!!
ああ何ということか! …残った片足では思ったより、浮力を確保できない。
どうしよう、ああどうしよう…と慌てているうちに再び大波が来て跳ね飛ばされ、さらに体制を崩す。
このままでは溺れてしまう、本当にヤバイ!!
周囲を見渡したが、同僚を含め、他の海水浴客はもっと浜の方で、子供みたいにピチャピチャ遊んでいる。
…となるとライフセーバーしかいないわけだが、こんな時なのにどこにいるのか分からない。
波の壁に阻まれ、見えないからだ。
それに何より、あまりに動転したために声も出ない!
辛うじて浜辺は見えたが、陸組の同僚達は「中野君は何か楽しそうなことをやっていてイイ感じだな!」といった目で眺めている……最悪だ。
ここで死ぬのか…という、この期に及んでは極めて現実的な妄想が、頭をよぎる。
友達からは、ゲームのハイスコアに命を懸ける「スコアラー」だけに攻め過ぎた……と没後にネタ化されるのだろうか?
一方、マスコミの方はどうだろう?
「ゲーム感覚で波に抗い、それが命取りとなった…もちろん彼の趣味はゲームだった」 などと報じられてしまうのだろうか? もしそうだとしたら、自分は最後に非常にまずいことをしたかも知れない!
…いやいやそれ以前に、単に「今日も海の事故――全国各地で死者3人」と1、2分報じられて終わりかも知れない。
それもまた癪ではないか!
そう考えている僅か10秒くらいのうちに、「何とか生還しなければ、生き残るパターンを作るのは特に上手かったでしょ! ゲームで」…という気持ちが強くなってきて、今この場で生還のためのパターンを作ることにした。
だがこのパターンは“試せない”。
なぜなら1回こっきりだからだ。残機もなければ、追加クレジットもない。絶対に成功させなければ、自分の中の全てが無に帰する以外にないのである。
それに死へのカウントダウンが既に始まっている以上、あまり時間をかけていられない…!
時間にして5秒くらいだったろうか、自分は1つのパターンに賭けた。
それは、「あえてゆっくり浜辺に戻るやり方」だ。
早く帰れればそれに越したことはないが、その分動きが大きくなり、浮力を得にくくなる。
そこで波の比較的穏やかな時に浜へ向かって進み、波が来たらあえて“抗わない”方法だ。
足がつかないとはいえ、それほど沖に来ているわけでない。このまま沈まないで少ない浮力を何とか維持し、ある程度距離を稼げれば、足がつく場所まで行くことは可能なはずだ。
とにかく沈まないように慎重に片足で泳いでいき、1メートルごと着実に進む。なかなかいい感じだ。
波が来るとまた2、3メートルは沖に戻されてしまうのだが、気にせずそれ以上の距離を稼げばどうということはない。
全てはゲームのパターンよろしく、“割り切って”考えるんだ!!
こんな感じで自分はパターン通り、浜へ向かって進み始めた。
しかし残念ながらというべきか、ここでもゲーム同様、ランダム要素が生じてしまった。
この 「命のかかっている場所」 で!
磯幽霊は次の波で、再び特大のものを投げてよこした。
こうなると一気にパターンは崩れ、再度上まで持ち上げられたかと思うと、そのまま下へ、そして今度は海底まで一気に叩きつけられた。
海底の砂が自分の顔から上肢にかけて、激しくこすれてくる。
思わず少しだけ目を開けてしまったが、そこは“砂煙の灰色の世界”だった。
…恐怖に駆られた。 <
ところがである!
波は海底部分ではそれほど荒くなかったのだ…。
そこで自分はパターンを変更し、この先10メートルは浮上せず、このまま「海底を進むこと」にした。
というのは、海底は意外と海の流れがキツくなく、進みやすかったからだ!
とはいえ、海面でなく海底を進むのは非常に勇気のいることだったが、それでも腹を括って海底を進んでみると、やはりスイスイ進めるみたいだ!
…と、その時、自分の手には“何か”が握られているのに気づいた。
それは石のようなもので、どうやら先程海底に叩きつけられた際、防御反応で海底を何度も掴んだ時に手にしたようだった。
捨てようかと思ったが、この時は“手の開け閉めすら慎重に行わねばならけない状況下”に置かれていたので、あえてそのまま掴んだまま、先へ進んだ。
するとどうだろう、その先は更に順調に進め、息継ぎのために海面に上がると、そこもまた、穏やかになっていた。
自分はこの時とばかりに、少しだけ加速して浜へ向かい、ほんの15秒で足がつくところに戻り……そして1分半後、ついに浜へ生還したのだった!!
浜の同僚は、自分の手に握られていた貝のような石を見て「お土産?」とたずねてきた。
手にしていた石は「命の石」ともいえるありがたさが少しだけあったが、もはや危険なことはしないと決めていたので、自分にとっては別に要らないような気がしたし、自分も場の雰囲気を気にして、石については「そうそう、HP読者へのお土産だよ」とだけ言って、溺死しかけたことはあえて話さなかった。
…10分後、みんなで浜辺を後にした。
ぐったりと疲れ、健康ランド「太陽の里」へ。
(健康どころか、死にかけてますから!)
その後いくつか寄った後、関東ではCMもやっている健康ランド「太陽の里」へ。
海水浴の段階でもう既にぐったりと疲れていたので、その能天気な施設名に突っ込むことナシに、早々に温泉へ。
暮れなずむ空を眺めながら露天岩風呂に入ると、気持ちいい…!
そして闘う相手は選ばなければな…と海よりも深く反省した。
温泉から上がると、酒の席となった。
もうこれ以上語ることなどないのであるが、同僚のみんなは日頃の職務の苦労に乾杯していたが、自分はただ密かに、この世に生き残れたことに乾杯していた。
最高の酒だった。
昨日は会社の同僚達と「九十九里浜」(千葉県長生村)へ保養へ。
自分にとって、海水浴は12年ぶりで、本当に行っていなかった。だから物凄くワクワクするし、今日はとても楽しい海になるに違いない・・・!
◆ ◆ ◆
九十九里浜――千葉県長生村の海岸(外房)。
これが九十九里浜。
残念だったのは、前日までの狂った暑さとは打って変わって、この日の天気が曇りがちで、今ひとつ夏らしさを感じられなかったことだ。
それでも強い海風と、潮の香りがするから、否応無く気持ちは高揚してくる。
着いて早速、「浜辺で海を眺める側」と「泳ぐ側」の2グループに分かれたが、自分はもちろん海へ。
入るとやはり水が冷たい。
さらに予想以上に波が高い。
これは外洋に面した“外房の海”というだけではない。
ほんの数日前に起きた500人もの大量の命を奪った「チリ大地震」大津波の余波が太平洋を横断して、ここ千葉くんだりの九十九里にまで到達しているからのようだった。
12年前、和歌山の白浜の海で泳いだ時とは比べ物にならないほどの海の荒れ方だ。
そんな事情もあり、最初は慎重に泳いでいるわけだが、やはり久々の海水浴、押し寄せる波にブチ当たっているうちに楽しくなり、さらに大きな波を求め、あたかも磯幽霊に吸い寄せられるかのように、沖の方へ移動していった…。
◆ ◆ ◆
いつもより波が高い(浜辺でさえ、この高さ)。
そのことが後で、悲劇へとつながることなど、知る由もない…。
足がつかないあたりまで泳いでいくと、ここの波はサーフィン向けではないにせよ、かなり大きく、最高だ。
波にぶち当たるたびに、これが自然の猛威かよHAHAHA…と感動できる。
とまあ、そこまでなら良かったのだが、ここで自分は何を思ったか、ただただ「“自然の猛威になす術がなかった”とばかり報道する最近のTV番組は何か気に入らねェ…少しくらい抗ってみせろよ!」という、今となってはどうでもいい思念がフツフツと湧いてきて、「今押し寄せてきている大波にどれだけ吹っ飛ばされずに持ちこたえられるか?」という“結局TV番組みたいな企画”が頭の中で発生してしまい、早速やってみようということになった。
……俗にいう、“魔がさした”というやつだ。
早速次の波で、あえて正面衝突する形で突っ込み、どれくらい押し流されないか試すと、意外といい感じで持ちこたえられる。
次の波、そしてその次の波でも、いい感じで抗えている。体のフォームなどをその場で何パターンも作り、効果的な波への抗い方を次々構築していく。
これも結構面白いな…と、そう思い始めていた頃である。
◆ ◆ ◆
しかしその次の波が、「津波」かと思うくらいの超特大の高波であった…!
よし、ちょっと怖いけど頑張って立ち向かうぞ、と突っ込んだところ、今までにはないとんでもない力が体当たりしてきて、自分はそのまま家の2階くらいの高さまで跳ね上げられ、そのまま4回転くらいしながら45度先の、今度は異様に低くなった海面にパシーン!と叩きつけられた。
叩きつけられた瞬間、 自分は目から星を出しながらも「安藤美姫みたいだ」と思った。
だが余裕はそこまでだった。
突然、左足ふくらはぎに鋭い痛みが走り、すぐさま全く動かなくなってしまったのだ…!
途端に今まで何のことなく浮かんでいた体が、徐々に海中へ沈んでいくではないか!!
ああ何ということか! …残った片足では思ったより、浮力を確保できない。
どうしよう、ああどうしよう…と慌てているうちに再び大波が来て跳ね飛ばされ、さらに体制を崩す。
このままでは溺れてしまう、本当にヤバイ!!
◆ ◆ ◆
周囲を見渡したが、同僚を含め、他の海水浴客はもっと浜の方で、子供みたいにピチャピチャ遊んでいる。
…となるとライフセーバーしかいないわけだが、こんな時なのにどこにいるのか分からない。
波の壁に阻まれ、見えないからだ。
それに何より、あまりに動転したために声も出ない!
辛うじて浜辺は見えたが、陸組の同僚達は「中野君は何か楽しそうなことをやっていてイイ感じだな!」といった目で眺めている……最悪だ。
ここで死ぬのか…という、この期に及んでは極めて現実的な妄想が、頭をよぎる。
友達からは、ゲームのハイスコアに命を懸ける「スコアラー」だけに攻め過ぎた……と没後にネタ化されるのだろうか?
一方、マスコミの方はどうだろう?
「ゲーム感覚で波に抗い、それが命取りとなった…もちろん彼の趣味はゲームだった」 などと報じられてしまうのだろうか? もしそうだとしたら、自分は最後に非常にまずいことをしたかも知れない!
…いやいやそれ以前に、単に「今日も海の事故――全国各地で死者3人」と1、2分報じられて終わりかも知れない。
それもまた癪ではないか!
◆ ◆ ◆
そう考えている僅か10秒くらいのうちに、「何とか生還しなければ、生き残るパターンを作るのは特に上手かったでしょ! ゲームで」…という気持ちが強くなってきて、今この場で生還のためのパターンを作ることにした。
だがこのパターンは“試せない”。
なぜなら1回こっきりだからだ。残機もなければ、追加クレジットもない。絶対に成功させなければ、自分の中の全てが無に帰する以外にないのである。
それに死へのカウントダウンが既に始まっている以上、あまり時間をかけていられない…!
時間にして5秒くらいだったろうか、自分は1つのパターンに賭けた。
それは、「あえてゆっくり浜辺に戻るやり方」だ。
早く帰れればそれに越したことはないが、その分動きが大きくなり、浮力を得にくくなる。
そこで波の比較的穏やかな時に浜へ向かって進み、波が来たらあえて“抗わない”方法だ。
足がつかないとはいえ、それほど沖に来ているわけでない。このまま沈まないで少ない浮力を何とか維持し、ある程度距離を稼げれば、足がつく場所まで行くことは可能なはずだ。
とにかく沈まないように慎重に片足で泳いでいき、1メートルごと着実に進む。なかなかいい感じだ。
波が来るとまた2、3メートルは沖に戻されてしまうのだが、気にせずそれ以上の距離を稼げばどうということはない。
全てはゲームのパターンよろしく、“割り切って”考えるんだ!!
◆ ◆ ◆
こんな感じで自分はパターン通り、浜へ向かって進み始めた。
しかし残念ながらというべきか、ここでもゲーム同様、ランダム要素が生じてしまった。
この 「命のかかっている場所」 で!
磯幽霊は次の波で、再び特大のものを投げてよこした。
こうなると一気にパターンは崩れ、再度上まで持ち上げられたかと思うと、そのまま下へ、そして今度は海底まで一気に叩きつけられた。
海底の砂が自分の顔から上肢にかけて、激しくこすれてくる。
思わず少しだけ目を開けてしまったが、そこは“砂煙の灰色の世界”だった。
…恐怖に駆られた。 <
◆ ◆ ◆
ところがである!
波は海底部分ではそれほど荒くなかったのだ…。
そこで自分はパターンを変更し、この先10メートルは浮上せず、このまま「海底を進むこと」にした。
というのは、海底は意外と海の流れがキツくなく、進みやすかったからだ!
とはいえ、海面でなく海底を進むのは非常に勇気のいることだったが、それでも腹を括って海底を進んでみると、やはりスイスイ進めるみたいだ!
…と、その時、自分の手には“何か”が握られているのに気づいた。
それは石のようなもので、どうやら先程海底に叩きつけられた際、防御反応で海底を何度も掴んだ時に手にしたようだった。
捨てようかと思ったが、この時は“手の開け閉めすら慎重に行わねばならけない状況下”に置かれていたので、あえてそのまま掴んだまま、先へ進んだ。
◆ ◆ ◆
するとどうだろう、その先は更に順調に進め、息継ぎのために海面に上がると、そこもまた、穏やかになっていた。
自分はこの時とばかりに、少しだけ加速して浜へ向かい、ほんの15秒で足がつくところに戻り……そして1分半後、ついに浜へ生還したのだった!!
浜の同僚は、自分の手に握られていた貝のような石を見て「お土産?」とたずねてきた。
手にしていた石は「命の石」ともいえるありがたさが少しだけあったが、もはや危険なことはしないと決めていたので、自分にとっては別に要らないような気がしたし、自分も場の雰囲気を気にして、石については「そうそう、HP読者へのお土産だよ」とだけ言って、溺死しかけたことはあえて話さなかった。
…10分後、みんなで浜辺を後にした。
◆ ◆ ◆
ぐったりと疲れ、健康ランド「太陽の里」へ。
(健康どころか、死にかけてますから!)
その後いくつか寄った後、関東ではCMもやっている健康ランド「太陽の里」へ。
海水浴の段階でもう既にぐったりと疲れていたので、その能天気な施設名に突っ込むことナシに、早々に温泉へ。
暮れなずむ空を眺めながら露天岩風呂に入ると、気持ちいい…!
そして闘う相手は選ばなければな…と海よりも深く反省した。
◆ ◆ ◆
温泉から上がると、酒の席となった。
もうこれ以上語ることなどないのであるが、同僚のみんなは日頃の職務の苦労に乾杯していたが、自分はただ密かに、この世に生き残れたことに乾杯していた。
最高の酒だった。