中野龍三Web : ポンコツ号との思い出

【ポンコツ号】

台風接近で雨風ますます厳しい中、出勤のため雨合羽で自転車に乗ろうとしたら、まさかの「バッテリー」がない！
昨晩から玄関に置きっぱなしにしていて、しかも充電もしていないことが判明。

とにかく時間がないので、「どうか始業時間に間に合ってくれ……」とバッテリーをあきらめて行くことに。
バッテリーの切れた電動アシスト自転車ほど無駄に重いものはない。
上り坂がことさら苦しくて、何とか上がりきった先で吐きそうになる。

こんな所で止まっているワケにはいかない！
メロスは日没の定刻に遅れそうになりながら王都に向かって走り続け、「ああ、正直者のまま死なせてくれ！」と絶叫していたが、もはや他人事とは思えない。

少し休んだのち、鬼の形相でまた走り始める。

【メロスのポイ活】

交差点で無念の赤信号、とりあえずポイ活するしかないと思って足元を見ると、高級そうな“パンプス”が並べて置かれているではないか……何だこれは！
なぜここにパンプスだけがあるのか、持ち主はどうなってしまったのか。

昨日のネズミの死骸とは別の怖さがある。
もはやポイ活どころではない。

【ダメロス】

息を切らせて会社前に自転車を着けて、入り口へ突進し、タイムカードを切る。

定刻から３分遅れていた、やんぬるかな（とっととあきらめよう）。

【ポンコツ号の思い出（1）】

他人の２倍のスピードで定時で仕事を終わらせ、また雨合羽を着て自転車で夜の帰り道。
バッテリーがないのが、とにかくしんどかった。

この電動アシスト自転車だが、既に廃車寸前のポンコツなので、「ポンコツ号」と呼んでいる。
車軸が歪んでいるため、左右に振動するし、頻繁にキイキイ言ったり、カチカチと金属音が響いたりと色々ダメで、修理屋に持って行くと、「もう買い替えた方がいい」と拒否られる始末。

このポンコツ号、５年前に妻にアシスト自転車を……と、中古品を競り落としたものだ。
しばらく妻が乗っていたが、すぐに「歯飛び」を起こすようになり、これはペダルをこいでいると、ギアが一瞬外れてペダルが“ガシャッ”と前滑りするというもので、危ないので乗らなくなってしまった。
それ以来、ポンコツ号は誰にも乗られず、庭先で放置されてしまったのだ。

【ポンコツ号の思い出（2）】

状況が変わったのは、今年になってから、自分が妻に最新式のアシスト自転車（新品）を買い与えた時のことである。
自転車が増えたので、１台を処分しようとなって、庭の隅のポンコツ号を捨てようとした。

しかし、ちょうどその頃、今のように片道10キロ以上の職場に通わないといけなくなったため、曲がりなりにも電動アシスト自転車であるポンコツ号を再整備して、自分が乗ることにしたというワケ。

ポンコツ号は元々はいいブランドの自転車なのだが、５年前に既に中古で、製造年はさらに10年前ということで、もう15年前の古自転車なのである。
本来なら、とっくに処分されていなければならない“年代モノ”なのだ。
なのでバッテリーはフル充電しても半分程度しか溜まらず、すぐに電池切れとなる。
片道10キロ以上を行き帰りするなんて、そもそも不可能なので、坂道を上る時だけアシストの電源を入れるなどして、何とかバッテリーを保たせることにした。

そんなポンコツ号だが、最近自分が乗るようになって、なぜか「歯飛び」が起きなくなった。
非常に不思議なことだし、しばらくは使ってくれよと言われているようで、愛着が湧いてきた次第である。