2005年2月4日の記事です。

【SIGUMA氏おめでとう】
   
 もうお気づきの方も多いかと思うが、前回読者の方から、「日本でプロゲーマーが誕生した」とのご一報を頂いた。自分にとって、日本でプロゲーマーが生まれるのは、もう少し先かと踏んでいたので、非常に驚かされ、また、いい流れが生まれている、と率直に感じた。  
 今回の成功は、氏の驚くべき行動力に尽きると思うのだが、まずはその経緯を述べることにしよう。  
 SIGUMA氏はオンラインゲームのプレイヤーで、「HALO」など世界レベルの大会で上位に入る実力者である。その腕前からもちろん2005年度のCPL(世界大会)の日本代表入りを目指していたのだが、日本の主催者側から、「今回はCPL日本代表を輩出しない」との発表があり、出場が不可能となってしまった。  
 CPLに出るために練習を重ねてきたSIGUMA氏は、非常にショックを受けたという。しかし、普通の人ならそこであきらめるのだが、彼は一人ででもCPLに出ようと考えた。  
 しかし、前回でも少し触れたかもしれないが、WCGやCPLは世界レベルの規模の大会で、1年を通して、世界各地で開催され続ける。それに出ようと思えば、莫大な費用(渡航費、宿泊費等)を個人で負担しなければならない。ほんの2、3回出るのであれば、個人でも可能かもしれないが、1年通してとなれば、もはや手に負えない額となるのだ。  
 そこでSIGUMA氏はスポンサーを探すため、企業を回り始めた。と簡単に言うようだが、これはスポンサー制度が確立されている海外と違い、日本では前例がない行為である。相当の勇気と行動力がなければ出来ないことなのだ。彼は、回った先でプレゼンを通して、日本でのe-スポーツ(競技としてのゲーム)の現状や今後の可能性を訴え、そしてついに1社からスポンサーの申し出を受けたのだった。  
 その企業は「ASK」(本社・千代田区市ヶ谷)というPCパーツ・ソフトウェアメーカーである。そしてこのASK社が、SIGUMA氏と旅費やハードウェアなどのサポートを行うことで合意したので、ここに事実上プロゲーマーが誕生することになったのである。  
 以上が経緯である。ASK側にとっては、自社デザインのキーボード「Zボード」を、大会で使ってもらえたり、PC関連賞品の輸出入をしている関係上、大会を通して海外に自社を宣伝する、というメリットも考えられるのだが、e-スポーツという言葉もほとんど知られていない日本において、リスクを省みず、理念だけでなくこれだけの行動を起こすことは、難しいことであり、勇気のいることなのである。実に夢のある企業だと感じた。  
 また、SIGUMA氏にも弱冠24歳で自ら行動を起こし、日本のゲーム史に残る結果が出せたことに、心から拍手を送りたい。  
 幸せは常に、こちらから取りに行くものである。    

【さらにプロゲーム化するには】
   
 SIGUMA氏にこそ「構造改革」や「改革断行」の言葉がふさわしいが、さらなるプロゲーム・システムの改革を進めるとしたら、結論から言えば、やはり「国内リーグ」の創設であろう。
 なぜなら、日本が世界主催のリーグに参加するという形だけの現状だと、今後プロゲーマーになれる人数も限られるし、海外だけでプレイしても、全ての情報の中で、海外の情報はほんの一部に過ぎないことを考えると、国内リーグの創設は必須と考えられるからだ。国内リーグが出来なければ、せっかく芽をふき始めたe-スポーツもマイナースポーツはおろか、「ミクロ」スポーツにとどまってしまいかねないし、スポンサーの経営状態がちょっと悪くなっただけでも廃止されかねない。  
 とはいうもの、もちろんすぐの国内リーグ創設などは無理な話で、ちゃんとしたインフラ整備が行われない限りは、仮に出来ても失敗すると考えられる。なぜ失敗するかは、この後実例を挙げながら述べていくわけだが、つまるところ、一貫して言えるのは、「カネ」についてである。  
 e-スポーツと銘打って、プロゲーマーを集めるためには、それで生活が出来るくらいの賞金や契約料、年俸を用意しなければならない。そうしないと、学生やニートの場合ならともかく、社会人の場合は、どんなに夢があってもプロゲーマーにはなれないだろう。今ある仕事を捨てて、ゲームのために生きようなど、自殺行為に等しい。妻子がある場合などはなおのことである。  
 だから、今ある国内のPCゲーム大会のような、優勝賞金が10万程度、あるいはPCパーツ程度というのであれば、プロゲーム化は不可能である。  
 仮に、強引にその状態で始め、プロゲーマー側もボランティア精神を発揮して、手弁当でプレイしたとしても、仕事の片手間でするプレイなど、見るに値しないだろう。それも国内でやっている分にはまだいいだろうが、何かの弾みで、海外のプロゲーマーと交流試合でもすれば、その弱さは露呈して、日本のファンは一斉に冷め、誰も見なくなるに違いない。「ドーハの悲劇」後のJリーグがその好例である。それまであれほど応援していたサポーターが急に見向きもしなくなり、あれほどあったサッカー中継も、いつ試合をしているのかわからないほど、減らされてしまった。ファンや視聴者というものは、弱者には常に厳しいものなのだ。そしてそれがプロの世界である。
 だから、前回紹介したHalenのような、実力は世界レベルなのに、プレイに集中できる生活が出来なかったために、1回戦敗退するような悲劇が今後も常態化するようシステムでは、プロリーグを作る意味がない。    

【バトルトップ・ジャパンの失敗】
   
 何はともあれ、ここでプロゲーマーを養成しようとして失敗した例があるので、ここまでのおさらいがてらに、見ていこう。  
 今から2、3年前、日本に「バトルトップ・ジャパン」という団体が出来た。もともと韓国でプロゲーマーを養成する団体「バトルトップ」がその経営母体で、支部がヨーロッパやアジアなど世界10数ヶ国にあり、バトルトップ・ジャパンはその日本支部ということになる。  
 当団体は、プロゲーマー候補を18歳以上の希望者を、1年がかりでプロになるための教育をする、という方法で育成していて、その一方で本格的な大会も、日本の誰もが聞いてわかるような大手ゲームメーカーと共同で開催していたようだ。  
 ところが2003年5月、当団体はいきなり活動をやめてしまった。この月に何の断りもなく対戦用サーバを停止させ、現在では、当団体のHPにもアクセスが出来なくなってしまった。この状況を見ると、潰れたことは誰の目から見ても明らかだ。  
 ではなぜ潰れたか。バトルトップは本場韓国ではWCGに協賛し、65万人ものサービスユーザーを抱えている。その経営は危なげない。それでも日本において潰れた。日韓での運営上の違いは1つしか見当たらなかった。それは、育成するプロゲーマー達に生活が保障出来なかったことである。過去にバトルトップ・ジャパンが開催したゲーム大会を見ても、それがよくわかる。優勝しても賞金はなく、「ペンティアム4プロセッサ」が貰えるに過ぎない。たかが3、4万の賞品だから、換金すればもっと安くなる。これならまだ前回紹介した「闘劇」で3万貰った方がよいくらいだ。  
 たかがペンティアム一個のために仕事が捨てられるか、そんな声が聞こえてきそうである。  
 だからお金をかけねばならないのである。    

【認識という壁】
   
 このようなことを言うと、お金ありきの発想は青少年の育成に有害である、と教育関係者から非難されそうなので、あらかじめ言っておくが、プロ野球もJリーグも囲碁も将棋もプロとついている競技は全てお金である。スポンサーがいて、スポンサーからお金を貰う選手がいて、スポンサーの商品を買う視聴者がいてはじめて成立し得るシステムなのだ。どれかが欠けてもダメであり、そうなると潰れるか、草野球のように細々とやるしかなくなる(それにしても最近は本当に草野球を見かけなくなった)。お金のかかっていないプロスポーツで繁栄した例はほぼない。夢だけでプロスポーツがやれるわけがないのである。  
 その顕著な例がプロ野球である。「野球が好きだからやっている」、「ちびっこに夢を与える」は選手の常套句だが、その一方で、来季の年俸が気に入らないとゴネる選手の姿も、テレビを通してちびっこがいるお茶の間にきっちり流される。現在だと、巨人の上原がいい例だ。メジャー行きをちらつかせ、3億円の年俸にサインをするのを拒み、キャンプインしても契約を更改していない。これに非難の声もあがっているが、だからといってちびっこが夢を奪われるという事態は起きていない。実力がある人がお金をいっぱい稼ぐという、資本主義社会においてごく自然なことを学ぶに過ぎない。

【ゲームリーグ始動について】

 話をプロゲームに戻すと、世界基準でプロゲーマーの生活をサポートするシステムの確立(つまりお金)が必須ということを、手を変え品を変え、しつこいくらい繰り返してきている。  
 しかし前回、ゲームの大会をするも、運営だけで手一杯で賞金を出す余裕がない、という大会運営者の声を紹介した。この大会にはれっきとしたスポンサーが何社かついているのだが、それでも厳しいというのだ。  
 しかしそれは仕方がないというものだ。PCゲームにせよ、アーケードの対戦の大会にせよ、別にそれがスポーツ紙で取り上げられるわけでもなく、現状のままであれば、スポンサーにしてみても、わざわざ賞金をつり上げる理由がない。やはり3万円であったり、PCパーツであったりする。スポーツ紙もテレビも取り扱うのはプロのスポーツか犯罪である。そこに載ってこそ広告になり、新たなカネが発生するといえるのである。
 だから、この現状を打開するには、早々に「プロ宣言」するしかない。自分の意見だが、主要なゲームメーカーや、PCメーカーに声をかけ、プロゲーマーを養えるだけの頭数が揃ったら(インフラが整備できたら)、「eリーグ」(仮称)として統一リーグを立ち上げ、すぐさまテレビでの大会放映権を獲得するのが最もオーソドックスなやり方だと考える。
 なお、テレビ枠を取ることは、自分が第2回の記事で述べたり、前回の犬飼博士総監督が言及しているように、「ゲーム外メディア」での紹介にあたるので、絶対に外せない項目であろう。最初は深夜枠でもいいので、必ず取るべきである。もっとも深夜枠では、今でもゲーム番組はあるし、くだらない深夜番組を1つ削ってプロゲーム大会を入れることが、至難の業とも思えない。  
 そしてさらにメディアを通して、ゲームの競技はスポーツであり、それでメシが食えるんだ、という憧憬と共に、新しい価値観を生まなければならない。ゲーマーはこれまでのように社会の厄介者ではなく、お金と名誉のなる木なのだと。  
 そしてもう一つ重要なのが、プロゲームだからといい、必ずしもPCゲームにこだわらなければいけないわけではない、ということである。もともとPCゲームが流行っているのはアメリカや韓国の事情である。もし日本がPCゲームよりも、「闘劇」のようなアーケードの対戦格闘ゲームが流行っているのなら、国内リーグである以上、アーケードのプロチームを作っても何ら支障がないと考える。また、PCとアーケードの複合でもいいと思う。同じテレビ番組で2つのジャンルを取り上げることにより、それぞれのジャンルの視聴者が観ることになるし、その過程で、他ジャンルにも興味が生まれれば、ソフトなど2つのジャンルの商品がそれぞれ売れるというシナジー効果も期待出来る。  
 ともあれ、プロゲーム化を遂げる第一歩は、前出のSIGUMA氏のように、企業とゲーマーが一体となってプロジェクトを進めるという基本姿勢であろう。    

【INHのビジネス】
   
 ここまでPCゲームやアーケードの格闘ゲームばかり取り上げてきたが、自分は2Dシューティングやパズルしかやらないから関係ない、と思われた方も多いかもしれない。
 確かに2Dシューティングなどは、頑張っても対戦のしようがない(一部例外作品もあるが)。また、対戦ゲームだと必ず勝敗がつき、絵になるが、仮に2Dシューティングなどを会場でやって、緊張でもして、クリア出来なかったりすれば、目も当てられないし、実際その場合が多い。これまでゲーセンで2Dシューティングの大会(紅白2チームに分かれ、各々1人ずつがプレイし、出たスコアを合計して勝敗を決めるというもの)を何度か目撃してきたが、そのプレイヤーのベストのプレイを見ることが出来たのは、皆無だった。
 だから、2Dシューティングなどの場合、他と同じやり方でプロ化するのは不可能に近い。だがこういったジャンルがビジネスに不向きかといえば、そうでもない。
 2Dシューティングの場合、視聴者がプレイヤーの最高のプレイを観る方法は、昔からメーカーが販促用のオマケで付けたり、ゲーム誌が不定期で出したり、誰かが同人販売したりしているビデオやDVDを買って観ることである。これらはあくまでオマケであったり、たまにやるイベント的な要素が強い商品なのだが、自分はこれを発展させればビジネスにするのも可能かと考えている。そして最近、このビジネスを本格化させた企業がある。INH社である。  
 INHは2Dシューティングの攻略DVDを中心に企画販売を展開し、昨年末に発売された『バトルガレッガ』(ライジングの縦スクロールシューティング)はかなりのヒットを記録したと聞いている。もちろん実数まで窺い知ることは出来ないが、この業界で「売れた」というのは、3000枚以上を指す。  
 以前の記事でも取り上げたように、ここ数年、2DシューティングDVDが各社から立て続けに発売されているのだが、正直いって、あまり売れたという話を聞いたことがなかった。にもかかわらず、ここにきてINHが好調だという話である。なぜだろうか。  
 自分はその理由は、高いクオリティーのプレイ映像のみならず、さらに「サウンドトラックCD」(以下サントラ)を付加して販売したことにあると思っている。これまでプレイ映像だけであったり、サントラだけであったりする商品を見送ってしまう客層を、2本立てにすることで、ガッチリつかんだ結果ではないだろうか。ともあれ、こういう形でサントラが復刻されるのは非常にいいものである。  
 というのは、現在ゲームのサントラは絶版物も多く、プレミアがついて手が届かないほど高価なものもある。例えば自分が持っている『戦国エース』(彩京の縦スクロールシューティング)のサントラは市価1万2千円である。こういった高価なサントラを、プレイDVDとセットでこの半額以下で売られれば、確かにそれだけで買う人も現れるだろう。例えサントラ付きだったとはいえ、まともに売れたという点でINHは、DVD製作という新規ビジネスの先鞭をつけたといって、過言ではない。  
 他の企業で過去にゲームDVDが売れなかったため、この路線から撤退したところも多いが、このINHの成功例が、一度売れなかったからその市場がダメというわけではなく、時期や条件によって、いくらでも変化するということの一例となり得るのではないだろうか。    

【プロアーティストという道】
 
 INHのようなDVDビジネスが定着化を果たせば、そのDVDのプレイヤーは、印税のような形で収入を得るという可能性も生まれてくる。そして今後の成り行き次第では、上手いプレイヤーなら、PCなど対戦のプロゲーマーほどでなくとも、ゲームで生活出来る人も出てくるかもしれない。
 例えば単純計算だが、5000円のDVDが5000本売れ、その10%を印税のような形で受け取ることが出来れば、年収は250万となるので、大卒初任給程度の生活は可能だ。もちろん超一流プレイヤーなら、年に2、3作手がけるかも知れないし、そうなれば、年収もその2、3倍となるので、他のプロスポーツとも引けを取らなくなるだろう。対戦がプロゲーマーであれば、こちらはさしずめプロアーティストというところか。  
 また、先述のe-スポーツのプロゲーマー化が成功すれば、更なるシナジー効果として、DVDの販売本数も伸びるかも知れない。それは対戦の大会も、シューティングのDVDも同じ「競技」という範疇であり、大会番組の中のワンコーナーで紹介する、といったことも可能となるためだ。    

【企業との共存】
   
 ここまでプロゲーマーを中心に述べてきたわけだが、こういった話題は、別にプロゲーマーを目指していたりするわけでもなく、また、ゲームで生活をするという発想自体が、生理的に受け付けない人々にとっては、意義がなく、関係もないことのように思えるかもしれない。
 しかし、現在ゲーム市場は縮小しつつあり、業界全体が低迷しているというのは、ゲームを知らない人にとっても常識となっている。もしこのまま我々が何もしなければ、ジリ貧になるしかない。そして自分は、それを打開するための最後の方策がゲームのe-スポーツ化、つまり競技化を図ることだと考えている。競技化することによって、前回述べたように、ソフトが長く買われ続けることになるだろう。そうなると市場には良質なソフトが多く供給されることになるので、それでプレイヤーの裾野が広がり、ゲーム人口も増加に転じる。アーケードにとっても、ゲーセンの潰れるスピードを緩めることが出来るだろうし、上手くすれば、また増えるかもしれない。これは無論、プロゲーマーだけでなく、全てのゲーム人口にあてはまる現象なのである。
 自分は昨年、夏コミ会場で自伝やDVD(使用権取得済)を売っていたが、お客さんの一人が、ゲームをやる環境があればまた行くのにねえ、と言っていたのがいまだに忘れられない。だからもしプロゲーム化に成功し、ゲーセンが増えたら、この人にとってもいい結果をもたらすのでは、と思っている。
 したがってそれらの効果は、決してプロゲーマーのためだけにあるのではなく、全てのゲーマーにあてはまる恩恵であることを強調しておきたい。  
 そして何度も言うようだが、これらは、プレイヤーと企業が手を取り合って初めて成立する事業なのである。  
 これからは、もう古いやり方では通用しない。未来の子どもたちに良質なゲームを遺すという意味でも、一刻も早いプロゲーム化が望まれる。